持続可能な復興に挑む同志社大生起業家

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同志社大学に通う現役の経済学部2回生でありながら、石川県発のお土産ブランド「ミルクとしお」を展開し、令和6年能登半島地震の復興支援とビジネスを両立させる若き起業家がいる。株式会社ADTOの代表を務める向出惺真(むかいでせいま)氏だ。未曾有の震災を経験した故郷に対し、なぜ「ボランティア」ではなく「起業」という道を選んだのか。事業の原点から、リアルな大学生活、そして能登の未来に向けた思いに迫った。

原点・起業の決断:復旧ではなく「復興」を目指して

 震災支援において、多くの人がボランティアや寄付を思い浮かべる中、向出氏が選んだのは自ら事業を立ち上げるという道だった。その背景には、「復旧と復興の違い」という向出氏の考えがある。マイナスになった状態をゼロに戻すのが「復旧」だとすれば、震災という出来事を経て、石川県に新たな価値やプラスを生み出すのが「復興」である。外からの支援に頼るだけでなく、能登の素材を使った新しい商品を作り、多くの人を巻き込んで石川県に人を呼び込みたい。その思いが、起業とお土産開発という選択に繋がった。
 高校3年生という若さでの起業には、未知数なリスクや資金面、SNSで顔を出すことへの恐怖など、多くの不安が伴ったという。これに対し、向出氏は独自の「マイルール」でリスクを管理した。資金面では「絶対に借入をしない」と決意。SNSを活用したプロモーションを主戦場とすることで初期費用を抑え、第1弾のゴーフレット開発時にはクラウドファンディングで340万円以上の支援を集めることに成功した。また、SNSの発信においては、炎上リスクを下げるために台本の段階で親や友人に確認してもらうなど、第三者の視点を積極的に取り入れた。
 資金調達から商品開発、著名人とのコラボレーションに至るまで、事業を牽引したのは紛れもなくSNSの力であった。菓子会社の社長へ直接交渉に赴く動画などを配信し、発信を続けることで、多くの協力を獲得していく原動力となったのである。

事業とリアルな大学生活:京都での刺激と広がる視野

 京都への親近感に加え、日本トップクラスのインバウンド需要を誇る京都は、ビジネスを学ぶ上で非常に魅力的だったと向出氏は語る。全国から多様な学生が集まる同志社大学を進学先に選び、現在は学生と経営者という二つの草鞋を履いている。
 現在展開している事業は大きく分けて二つある。一つはメインとなる「ミルクとしお」の商品開発・販売だ。第1弾のゴーフレット、第2弾のバターサンドに続き、現在は第3弾となるラングドシャを一部店舗で順次展開している。もう一つは、初期投資ゼロから始めたSNS事業だ。他企業のSNS運用代行やコンサルティング、スクールでの講師業など、幅広く事業を手掛けている。
 多忙な日々の中での学業との両立は、緻密なスケジュール管理と権限移譲によって成り立っている。全休や半休を意図的に作り出し、大学がない日に仕事を集中させるよう履修登録を工夫。同時に、代表取締役として「方向性の舵切りと意思決定」に注力し、実務的な業務は他のメンバーに任せることで、フル単位での単位取得を目指している。
 大学入学後の環境変化も、向出氏に影響を与えている。石川県にいた頃は出会えなかった、起業やスポーツなど様々な分野で活躍する同世代と交流できる京都での毎日は、非常に刺激的だという。さらに、大学1年時には小泉進次郎氏と対談する機会を得た。国益や世界レベルの視点で物事を語る姿に触れ、「自分の考えていることがいかにちっぽけだったか」を痛感。思考の深さと幅の広さに圧倒され、自らの視野を大きく広げる転機となった。

能登の現場と未来:一番の支援は「遊びに行くこと」

 発災から時間が経過した現在、能登の復旧は進んでいる地域がある一方で、未だ全く手が付けられていない地域も残されているのが実情だ。懸命に復興に向き合う強く前向きな地元の人々に対し、向出氏は「持続可能な復興の形」をビジネスを通じて体現し続けたいと語る。能登の素材を使った商品が売れれば、継続して地元に資金が還元される。株式会社ADTOが目指すのは、ゆくゆくは能登にとどまらず、日本全体を支えられるような企業への成長である。
 最後に、一般の学生ができる被災地支援について尋ねると、向出氏は力強く「遊びに行くこと、そしてお金を使うこと」だと答えた。
 この考えは、「ミルクとしお」開発の原体験に結びついている。避難所を訪れた際、ある高齢の女性から「こうやって来てくれるのが一番嬉しい」と声をかけられた。物資や寄付以上に、直接足を運んでくれることが被災者の心の支えになるという事実は、向出氏にとって大きな衝撃だった。
 誰かが旅行先でお土産を買ってきてくれると、その土産話をきっかけに「自分もそこへ行ってみたい」という思いが連鎖する。「ミルクとしお」には、そのような石川県へ足を運ぶきっかけを作りたいという願いが込められている。被災地を忘れず、観光に訪れ、現地で経済を回すこと。それこそが、今日から始められる、最も温かくて確実な復興支援の形である。

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